企業向け新型コロナウイルス対策情報配信 2021年1月25日付
【39】 まん延期における企業内濃厚接触者調査の留意点
企業の経営者・担当者のみなさま、新型コロナウイルスのまん延期において、これまでとは異なる状況が起きつつあります。特に企業内で濃厚接触者調査を行う場合、これまでとの違いに留意しながら対応を進める必要があります。
1. 課題の背景:
本情報配信の第32回「企業における濃厚接触者調査の留意点」でも、医療機関で従業員が新型コロナウイルス感染症と診断された場合、感染症法に基づき管轄の保健所に報告され、接触確認の調査及び濃厚接触者への対応が行われること、そして企業としても調査への協力を求められることにつき述べました。しかしながら、まん延期において、神奈川県に代表されるように、濃厚接触者調査の対象を重点化し、一般企業等での調査は行わない自治体も出てきております。また、感染者数の拡大が続く中、企業内で感染者が出るリスクは今まで以上に高まっております。
企業内濃厚接触者の調査を保健所が行わなくなったからといって、企業として何もしない訳にはいきません。ただ、これまで保健所が担っていた機能を、企業がそのまま担うということも難しいことと思われます。産業医等の産業保健専門職と契約をしている事業場においては、専門職に調査の進め方につき相談することも可能です。しかしながら、多くの企業ではそのような連携が持てていないことと思われます。そこで、ここでは専門職との連携のない小規模事業場を想定して、まん延期に企業が行うべき対応について説明します。
2. 企業でできる対策:
〇 感染拡大を最小限に抑える対策を徹底する
○ 濃厚接触者を特定する
○ 特定した濃厚接触者への対応を行う
2-1. 感染拡大を最小限に抑える対策を徹底する
□ 症状がある従業員には休んでもらう
□ 休憩・昼食時も含めてマスクの着用を徹底する
□ 最低1m以上の身体的距離を確保する
職場で最初に感染が明らかになった人は、必ずしも最初に感染した人とは限りません。職場ですでに感染が広がっている可能性もありますので、まず実施すべきことは周囲の人の体調確認になります。この段階で症状がある従業員がいれば、すぐに休んでもらうようにしましょう。そして、医療施設に連絡をとり、医師の判断を仰いで行動するよう伝えましょう。
また、職場での感染拡大を最小限に抑えるために、「マスク着用の徹底」、「身体的距離の確保」を強化することも大事です。特に、休憩や昼食時などを含め、マスクを外して会話することのないように徹底しましょう。ちなみにこの二点は次項で述べる濃厚接触者特定の目安となるものです。企業内で感染者が出ても、日頃からの感染防止対策により濃厚接触者がゼロであれば、事業への影響を最小化することができます。
次項から述べる濃厚接触者対応については、「とてもそこまで手が回らない」「保健所と同じようなことはできない」という企業もあることでしょう。そのような企業も含めすべての企業で、ここで述べた『感染拡大を最小限に抑えるための対策』は最低限実施しておきたいことと言えます。
2-2. 濃厚接触者を特定する
<濃厚接触者を特定する目安>
感染者の発症2日前~感染が確定するまでの間に、
□ 感染者と同居あるいは1時間以上の接触(車内、航空機内等を含む)があった者
□ マスクなしで 1 メートル以内、15 分以上会話があった者(会食等を含む)
従業員の感染が確定した場合、まずは上記目安に該当する従業員や関係者(社外を含む)がいないかを、感染者本人に無理のない範囲でリストアップしてもらいましょう。また、濃厚接触が考えられる従業員や関係者を特定していくのに、誰が感染したかを知らせる必要が生じますので、関係者に名前を開示することにつき本人の了解を求めておきます。
なお、接触の調査は感染拡大防止のためにお願いして行っているのであり、対象者には調査協力への感謝をもって接するようにしましょう。くれぐれも感染したことを責めることがないよう注意しましょう。また、従業員の行動を追うのは「業務の範疇」にとどめ、休みの日や就業時間外に社内外の関係者以外と何をしていたのかなど、業務の範疇外の行動の確認は行わないようにしましょう。
その後、リストアップされた濃厚接触が疑われる従業員にヒアリングを行い、前述の目安に該当することが確認できた者を濃厚接触者と特定します。なお、担当者も従業員も不安を感じることから、つい対象者を広範囲に広げがちですが、対象者の家族も含めて影響も大きくなりますので、なるべく上記基準の範囲内で特定するようにします。
2-3. 特定した濃厚接触者への対応を行う
□ 最後の接触から14日間の健康観察と自宅待機を求める
□ 無症状者に自費PCR検査の受検を求めない
□ 社外の濃厚接触者と連絡をとり、状況を伝える
濃厚接触者と特定した従業員については、感染者との最後の接触から14日間、健康観察と自宅で過ごすことを求めます。この間に症状があれば速やかに会社に報告するとともに、医療機関に電話連絡の上で受診するよう促します。
なお、会社として自費PCR検査を実施するべきか非常に関心の高いところかと思いますが、検査を実施してたとえ陰性であってもそれで感染していないことを証明するものではありません。企業で費用負担する場合でも、症状がない従業員に検査の受検を無理に進めないようにしましょう。
自宅待機期間はなるべく在宅勤務の扱いとすることが望まれます。在宅勤務ができずに休業の扱いとする場合は、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する可能性があり、休業手当を支払う必要が出てきます。
感染者との接触はあったものの特定対象外となった従業員に対しては、健康観察と感染対策を強化する程度に留めましょう。自宅待機は求めないものの、少なくとも最後の接触から14日間は、濃厚接触の目安に該当するような行為(会食などマスクを外した状態で会話するなど)を控えるように促しましょう。
社外に濃厚接触が疑われる関係者がいると分かった場合は、当該者に速やかに連絡をとり、状況を伝えるようにしましょう。当該者の扱いをどうするかは、当該者の所属する企業の判断に委ねることになります。
3.. 関連情報リンク:
1) 和田耕治「産業医のための、企業が自主的に『濃厚接触者』を特定する際の注意点」
日本医事新報社 Web医事新報 No.5032 【識者の眼】
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=15550
2) 吉川悦子、福元舞子、井口理、鈴木茜
保健師のための 積極的疫学調査ガイド[新型コロナウイルス感染症] 患者クラスター(集団)の迅速な検出に向けて 第2版(2020年12月24日)
http://www.zenhokyo.jp/others/doc/20201225-covid-02.pdf
3) 神奈川県
積極的疫学調査の重点化に関するQ&A(一般の方向け)
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/ekigakuchousa.html#%E5%95%8F4
4) 今井鉄平監修「自社内でコロナ陽性者が出たらどうしたらいい?取引先への報告や社員のケア、企業側が取るべき対応とは」 コロタツマガジン
https://i-goods.co.jp/covid/magazine/1244/
文責:今井 鉄平(OHサポート株式会社)
動画を下記で配信しております。
〇第37回動画「2021年に実施する健康診断の準備」
https://www.youtube.com/watch?v=6fOUN1hY5SI